ボクスター981の右ハンドルのMTを新車購入して約半年経過し、約7,500kmを走り込んできましたが、この半年で自分の車に対する考えが根本から変わったような気がします。車を見る時の採点基準が劇的に上がりました。
まずは性能面に対する考えです。正直、ボクスター981の素モデルよりも馬力がある車は世の中に腐るほどありますよね。たかが265馬力です。購入する時は315馬力のボクスターSにするか多少悩みましたが、結論としては265馬力の素モデルであっても満足感がありました。265馬力であれば、クラウンよりも馬力が無いですし、レクサスの各モデルよりも馬力がありません。フェアレディーZの330馬力が遥か彼方にあります。そのくらい265馬力という数字は魅力が無い数字で、本当にスポーツカーなのか心配でした。
しかし、実際に走り込んできて、素モデルの265馬力であっても、コーナーを攻める時などは、まるでレーシングカーに乗っているかのような「ワクワク感、ドキドキ感」があります。信号待ちからの加速で行きますと、ランクル100の方が低速トルクがあるだけにモリモリ感があり、速く時速60kmに至ります。もっとも、時速100km到達時間はボクスター981のMTであると、5.8秒とそこそこ速いですが、これはそれなりの運転をした時ですよね。普通に街中を走っているだけであれば、ランクル100よりも明らかに信号待ちからの発進はもたつきます。というか普通の車と同じか、遅いぐらいです。よく妻に笑われます。「ボクスターって、信号待ちからのスピードが随分と遅いわね~。エンジン音だけ聞いていると、相当に速いような気がするけど、前の軽トラについていくので精一杯じゃない」って。。。。
確かにこんな感じです。MT操作で、エンジンをガンガンに回さず、1速、2速、3速と普通にシフトアップしていくと、軽トラと何ら変わらないです。エルグランドなどよりも明らかに遅いです(苦笑)。。。それでも、エンジン音だけ聞いていると、「随分と加速しているような」気がします。「本気出せば、お前らより全然速いんだぜ」って思うしかないです(笑)。。。
これってまさに演出だと思いました。普通に大人しく運転しているだけなんですが、本当に楽しい空間なんです。「俺はスポーツカーを運転しているんだ。本当は底知れぬ速さを実現できるんだけど、街中では大人しい速さだよ。ウォームアップ走行なんだよ」って思えてしまうんですね。街中でのちょこちょこ運転が実に楽しいんですよ。信号待ちで止まる、発進する。1速、2速って加速する。コーナーが来たから減速して、また加速する。信号待ちで止まる。この単純な繰り返しですが、この単純操作が実に楽しいんです。これが決定打となります。ポルシェを購入する方、皆が絶対に満足できる瞬間が街中でのチョコチョコ運転だろうって思います。とりわけ、MT車を購入した方であれば、「MTで良かった」と心の底から思うでしょう。。街中でちょこっと運転するだけでも、子供のように楽しさを味わうことができるってとっても素敵ですよね。
僕はボクスター981のMTに乗っていると、急に無口になるようです。助手席に座っている妻から話しかけられるのが正直、イヤですよ(苦笑)。街中での単純な運転でも、ボクスター981のMT運転が余りにも楽しいので、妻に応答する気になれないのです。妻からも、「あんたがポルシェ運転している時は本当に無口になるね~」とからかわれます。
僕は基本的には運転中はペチャクチャが止まらない饒舌派ですが、ボクスター981に乗る時は正反対となります。無口なむっつり派に無意識になってしまいます。運転の楽しさに神経が集中してしまっているのですね~。ポルシェ乗りの多くの方が、街中でのMT運転の楽しさを力説していましたが、今、まさに体と頭の両方で理解できました。
同じ気持ちを、MINI Cooper Sやランクルに乗っていても感じません。又、86に乗った時も感じませんでした。しかし、スバルのWRX STIのATに乗った時は随分と楽しい車だな~って思いました。ラリー等で活躍しているだけのことはありますね。86に乗った時は、WRX STIやボクスターで感じる楽しさを感じなかったのです。
これって何かな~て思うのですね。たかが265馬力でそこまで感じさせるものって何だろうって。まさにここがポルシェが長年培ってきたノウハウだと思います。日本車が逆立ちしてもかなわない本物のノウハウです。お金で買うことができないノウハウ、簡単には真似のできないノウハウです。ある意味、音楽を奏でることに似ていると思います。ピアノやギターを上手く演奏したいと思っても、金を払ってすぐにできることではないです。何10年も努力を重ねて、繊細な音楽を奏でることができるようになるわけで、この繊細さがまさにポルシェが持つスポーツカーというエスプリ、官能性なんだと思います。言葉で表現できない極めて高い次元のノウハウです。
ポルシェとGT-Rの違いで一番大きいのは、路面へのへばりつき感ではGT-Rの勝ちとなるでしょう。しかし、路面情報がステアリングから伝わってくる感覚は逆にポルシェの勝ちとなります。ここなんですよね。これは僕も感じました。確かに、GT-Rはクソが100個つくぐらい速いですし、路面へのへばりつき感は半端ないです。しかし、路面状態がどうなっているかをステアリングを通して、体に伝えてくる繊細さはポルシェが凄いですね。ボクスター981を「空飛ぶ絨毯」と表現したのがまさにこれです。GT-Rは間違っても「空飛ぶ絨毯」ではございません。地面にへばり付いた超高速というか音速の軍艦です。ボクスターはそうではなく、「空飛ぶ絨毯」なんです。「空飛ぶ絨毯」なのですが、路面情報をステアリングを通して体で感じることができるから、車をコントロールできるのですね。GT-Rの場合は、軍艦にコントロールされている感覚でした。つまり、車が主体です。ボクスターを含めポルシェは、人間が主体です。車が主体ではなく、あくまで人間が主体ですが、主体である人間に必要な情報は十分に伝えられます。ここが大きな差です。必要な情報が十分に伝わるので、人間が車をマネジメントしやすいということでしょうか。。。必要な情報が十分に体に伝わるので、あとは人間がどうそれを料理するかですよね。ここが面白いのです。
こういう繊細さが面白いのだと思います。最高にスタイルの良い超美人女性が自ら裸になってしまうのがGT-Rで、ポルシェの場合、服を1つ1つ好きなところから脱がしていくような感覚です。どこから脱がすかはこちら次第。例えがまずかったですが、GT-Rとポルシェの違いです。
つまり、人間に速く走るための情報をステアリングやシートを通じて伝えてくれる。そして、後は速く走るための道具もキチンと提供してくれる。迅速なエンジンの反応性、すばやい変速操作等。PDKでもMTでも迅速性は相当にあると思います。PDKは神がかった迅速性を実現しました。MTでもPDKまでは行きませんが、考えられるギリギリまでの迅速性を実現できているのではないでしょうか。道具としては申し分無いレベルです。
エンジンパワーはこういった点に比べますと極めて控え目な所に位置づけられていると思います。ボクスターにしてもわずか265馬力、315馬力です。素の911でもわずか350馬力です。Sですら400馬力です。現代ではあまり大きな水準ではないと思います。
エンジンが仮に非力であっても、スポーツカーとしての面白さが十分にあることの理由が、繊細さだと思います。街中運転でも、この繊細さを味わうことが何よりも楽しいのですね。車好きであれば、間違いなくこの繊細さには喜びを覚えると思います。プロのスポーツ走行の運転を見て思ったのですが、スポーツ走行は本当に繊細さを100個つけたようなものです。普通の運転では繊細さはかけらも無いと思いますが、スポーツ走行は繊細な、極めて繊細な操作が要求されます。路面情報、車の状態を全身で感じて対応していく必要があります。ここまで繊細かと思うほどの絶妙な操作をスポーツ走行ではする必要がありますが、ポルシェはまさにそれをするためのものであったのですね。ここが肝心です。一番肝心なところです。ポルシェは本物のスポーツカーであり、素の状態のまま改造をせずにサーキットで走ることが出来る数少ない車なのですね。
エンジン音のカッコ良さ、エンジンの迅速な反応性、クイックな各種機器の操作性、ステアリングやシートから伝わってくる路面情報の繊細さ、地面へのへばり付き感、空飛ぶ絨毯感覚、そしてセクシーな外観。
これらがミックスしてオーラを奏でているのですね。。。
今や、ポルシャが1つのベンチマークになっているので、他の車を運転した時にどうしてもそのベンチマークと比べてしまいます。他の車を乗れば乗るほど、ポルシェ車の素晴らしさを痛感しています。こんな車が日本メーカーで作ることができたらと思います。しかし、AT限定免許が当たり前、車の話をするのは変人というような日本で、運転の面白さを実現できる車が生まれてくるのは至難の業だと思います。ハイブリッド等のワンパターンな技術革新であれば日本の土壌からでも生まれてくるのでしょうが、運転の面白さといった繊細さを求めるのはやはり厳しいかと。。。。培ってきたノウハウに差があり過ぎるかなと寂しい気持ちです。
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